ペロブスカイト構造
ペロブスカイト構造(ペロブスカイトこうぞう)とは、結晶構造の一種である。ペロフスカイト構造とも。ペロブスカイト(perovskite、灰チタン石)と同じ結晶構造をペロブスカイト構造と呼ぶ。例えば、BaTiO3(チタン酸バリウム)のように、RMO3 という3元系から成る遷移金属酸化物などが、この結晶構造をとる。
概要
理想的には、立方晶系の単位格子をもち、立方晶の各頂点に金属Rが、体心に金属Mが、そして金属Mを中心として、酸素Oは立方晶の各面心に配置している。酸素と金属Mから成る MO6 八面体の向きは、金属Rとの相互作用により容易に歪み、これにより、より対称性の低い直方晶(斜方晶)や正方晶に相転移する。
これにより、この結晶の物性が劇的に変化する。例えば、対称性の低下により、モット転移を起こし、金属Mのサイトに局在していた価電子がバンドとして広がることができるようになったり、金属Mのサイト同士のスピン間の相互作用による反強磁性秩序が崩れ、常磁性に転移したりする。この歪みによる相転移は、温度の上昇による金属Rのイオン半径の増加や、金属Rサイトに不純物原子を導入することなどでコントロールすることができる。
マントル内部のペロブスカイト
数十GPaを超える超高圧の環境では、ペロブスカイト構造は非常に一般的な構造である。この構造には、原子を稠密に詰め込むことができるためである。地球内部における主要な化学組成である MgSiO3 は、地下約660kmから約2,700kmのマントル下部において、ペロブスカイト構造をとっていると考えられる。
この MgSiO3 を、125GPa、2,500Kという超高圧高温環境下におくと、ポストペロブスカイト構造と呼ばれる、より原子が稠密に詰め込まれた相に転移することが明らかにされた。地下約2,700kmより深いマントル最下層では、MgSiO3 はポストペロブスカイト構造をとっていると考えられる。
酸化物高温超伝導体
や といった酸化物高温超伝導体は全て、ペロブスカイト構造を基礎とした結晶構造をしている。これら酸化物高温超伝導体には共通して、以下のような特徴がある。
- CuO2 八面体のような銅酸化物が、2次元のシート状に広がっている。
- このシートの上下には、ランタノイド等による伝導をブロックする層があり、銅酸化物層とブロック層が交互に積層する構造をとっている。
右図に見られるように、ペロブスカイト構造はシート状に並んだ MO2 八面体層と金属Rの層が交互に配置している。このような構造による2次元的な電気伝導が、高温超伝導において重要な役割を果す。
利用例
- 太陽電池
- ペロブスカイト太陽電池の発達により、光エネルギーの電気への変換効率が、2009年当時のCH3NH3PbI3 を用いた3.9%から2016年には最大21.0%になり、従来のシリコン太陽電池に近づいてきており、新たな利用スタイルと共に注目されている[4]。
- 白金族金属のリサイクル
- 産出量の少ない白金族金属を再利用する為に、白金族金属含有合金からのリサイクルが行われる。このリサイクルの際には湿式精錬法(王水などの強酸を用いる)と乾式精錬法(銅などの溶融金属)が用いられるが、回収率の悪さや処理コストの高さが問題となっている[5]。これに対し、白金族金属元素をペロブスカイト型酸化物に吸着させ回収することが可能とする研究がある[5]。
脚注
- ^ “デジタル大辞泉の解説”. コトバンク. 2018年2月10日閲覧。
- ^ ペロブスカイト(灰チタン石)は、化学組成 CaTiO3 の鉱物で、ロシア人科学者レフ・ペロフスキーにちなんで名づけられた。
- ^ “地球の構造”. 産総研地質調査総合センター. 2012年1月26日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2012年4月11日閲覧。
- ^ 高効率ペロブスカイト型太陽電池の製造コストが大幅低減
- ^ a b 野村 勝裕、蔭山博之、ペロブスカイト型酸化物を利用した白金族金属回収技術 まてりあ Vol.52 (2013) No.2 p.58-63, doi:10.2320/materia.52.58
関連項目
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灰チタン石(ペロブスカイト)
- ペロブスカイト構造