一社提供
一社提供(いっしゃていきょう、1社提供)は、テレビ番組やラジオ番組などへの提供を単独の企業または企業グループによって行うことをいう。単独提供、買い切りと呼ばれる場合もある。
ただし、テレビ番組やラジオ番組においては提供スポンサーの冠が入った番組名となっていたり、番組で流されるCMすべてがこの提供スポンサーであったりする場合を「一社提供」と呼び、提供クレジットは一社のみの表示であっても、多くのCM枠がパーティシペーションである番組(ローカルCMや再放送番組に多い[注 1])は「一社提供」と呼ばない場合が多い。
概要
現在では、通常、放送番組への提供は複数の企業などによって行われる例が多いが(これを一社提供に対して複数社提供、相乗りなどという)、民放創成期には、未だ番組の著作権という認識は社会的に生成されておらず、一社で番組を提供する事により、番組に対して「所有者」として大きな影響力を持つ場合が一般であった[1]。これは占領期でもあり、先行するアメリカの制度の模倣である。また、番組名に提供会社名もしくはブランド名・商品名が冠される場合がある。なお特にスポーツ大会・音楽・文化公演などの中継においては、冠協賛社の単独提供ではなく、複数の企業との合同提供により協賛する場合も多くある。
初期の民間放送では一社提供が原則で内容的・形式的に番組内容と強く結びついているものも多かった[2]。また1960年代後期まではスポンサーが専属契約したタレントや番組出演者が、スタジオの隅や舞台上で商品の実演を行ういわゆる「生コマーシャル」が代表的な手法だった[2]。
しかし、制作費の高騰に伴う予算の増大により1970年代では一社提供の原則は崩壊してCMは短編の映像を機械的に挿入する形式へと移行した[2]。さらにバブル崩壊による平成不況以降は一社単独での提供番組は減少傾向にある。最近はゴールデンタイム以外の30分枠でのバラエティ番組、もしくは5分から15分までの視聴率調査対象外のミニ番組[注 2]で多くみられる。更に、番組内容にクレーマーが腹を立て会社への電凸、不買運動等に発展してしまうのを避けるため現在では一般的なバラエティ番組の一社提供は無くなり教養番組と対談番組、ドキュメンタリー、ドラマに絞られている。
電力会社やガス会社など、営業エリアが限られる業界の提供番組では、準キー局の製作番組を中心に番組販売という形で関東地方の独立放送局や区域外の同一系列局を中心に非提供でネットしているところもある。
紳士協定上、酒造会社のようにテレビ番組での単独提供がミニ番組に限られているものや、製薬会社のように単独提供が前半の30分までとなっているものもある。実際、前者ではその会社が筆頭の複数社提供としているところ[注 3]もあれば、系列の清涼飲料水メーカーの共同提供[注 4]としているところもある。後者が提供する懸賞金が支給されるクイズ番組では、最大10万円[注 5]までであり、それ以上の賞金は製作局が預かることになっている[注 6]。
一社提供の弊害として、競合する同業他社のコマーシャルに出演している芸能人が出演できない事が挙げられる[注 7]。仮に出演する場合、出演する日のみスポンサーを降板し、ACジャパンなどの公共広告CMに差し替えられる事になる[注 8]。これは複数社提供でも起こり得る事だが、一社提供の方がリスクが大きいためこのような例は稀なケースである。
また、提供スポンサーに何らかの不祥事が起こったか、あるいは一時的にスポンサーがCMを引き上げた場合、CMは全てACジャパンや各社が制作するお詫びCM、各局の他番組宣伝に差し替えられる事となる。他にも、スポンサーの意向がダイレクトに影響され、視聴率関係なく親会社の事情や胸先三寸で打ち切りにさせたり、反対に社のイメージを壊さない内容であれば目標を達成していなくても番組を継続してくれる[注 9]などである。
なお、全国ネットの一社提供番組は基本的にネットワークセールス番組であり、一部系列局でネットされていない場合は、ローカルセールスではなく地域限定ネットワークセールスであり、一社提供スポンサーの推薦を受けないとネット出来ないという制約がある[注 10]。
長寿番組になると、スポンサーの撤退や複数社の提供となり、発展的に一社提供が無くなるという話題は、新聞やニュースに取り上げられるほどのものになる[注 11]。
脚注
注釈
- ^ ローカルセールス枠において、制作局では複数提供でもネット局では「一社提供」となるケースも含む。
- ^ 全国放送だが、平均的な視聴率が地上波よりも低いBS民放のバラエティ番組として製作されるミニ番組に至っては、そのほとんどが一社提供番組である。
- ^ 『情熱大陸(MBS)』などでは、異業種メーカーの共同提供となっている例もある。
- ^ キリン(30分番組でミニ番組ではない『僕らの音楽 Our Music』(フジテレビ)は、キリンビール、キリンビバレッジ共同提供→キリンホールディングス一社提供であり、15分番組で広義のミニ番組に該当する『世界一の九州が始まる!』(e-JNN持ち回り)は、キリンビール単独の一社提供)やサントリーなどの一社提供のミニ番組ではない番組の場合は、両者とも持株会社の一社提供としていることで、紳士協定の規制を回避している。
- ^ 現在は景品表示法による賞金の上限規制は撤廃されているが、放送業界の自主規制で1人当たりの賞金の上限を200万円としている。
- ^ 大抵の場合は、製作局の募金キャンペーンに寄付される。
- ^ AKB48がミュージックフェアに出演する場合、披露曲の標準メンバーに同業他社のCMキャラクターがいる場合は、グループ内の別メンバーに差し替える措置を採っている。
- ^ 具体例として、『僕らの音楽』2010年6月11日放送分にて、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」CMに出演する矢沢永吉が出演したため、キリングループの一社提供提供ではなくなり、それらのCMがACジャパンに差し替えられた例がある。この措置はラジオ番組でも同様の措置であり、スズキの一社提供ラジオ番組は必ず同社の広告に出演していたタレントを起用している。『SUZUKIハッピーモーニング・いってらっしゃいシリーズ』(ニッポン放送)は、鈴木杏樹の不祥事が原因で降板したため、羽田美智子の起用開始までのつなぎとして新行市佳を起用したが、ニッポン放送所属のアナウンサーで、スズキの広告に出演していなかったため、紳士協定上、新行時代はスズキの一社提供ではなく、タイムCM枠はACジャパンに差し替えられた。番組タイトルも『新行市佳のいってらっしゃい』だった。
- ^ 例としてTBSの「世界・ふしぎ発見!」がマンネリで低迷していた時期に、スポンサーの日立製作所が「質の高い放送をしているので提供を続けさせて頂く」と返答し、打ち切りにはならなかった。また、フジテレビの「ミュージックフェア」でもスポンサーの塩野義製薬が視聴率に関係なく本番組の提供を続ける意向があるため、打ち切りにはなっていない。
- ^ 腸捻転時代の「アップダウンクイズ」(毎日放送・NETと一部シングルネット局が対象)や、1981年10月以降の「ミュージックフェア」などがあり、両者ともそれ以外の時期は地域限定ではない通常のネットワークセールスである。
- ^ 「サザエさん」(フジテレビ)や「日曜劇場」(TBS)の東芝、「パネルクイズ アタック25」(朝日放送テレビ)の東リなどがその代表例。
出典
- ^ https://ci.nii.ac.jp/naid/110001900137/ 水野由多加(2005)「番組「提供」の制度化--1950年代民間放送創生期の確認」『関西大学社会学部紀要』36(1), 165-184.
- ^ a b c 高野光平「テレビ・アーカイブスとどう向き合うか」『年報社会学論集』第2009巻第22号、関東社会学会、2009年、 32-43頁、2020年1月6日閲覧。