暗殺

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リンカーン大統領の暗殺を描いた絵画(米国)

暗殺(あんさつ、英語: Assassination)とは、おもに政治的・思想的動機に基づき要人を非合法に殺害することであり、テロリズム行為の一形態に分類される。広義では、暴力団抗争を動機とする場合など、非合法な殺害行為全般を指す(殺人を参照)。

定義

主に政治的な理由により、密かに計画して人を殺すことであり[3]、単なる殺人とは異なり、国や世界など社会体制変革する目的で実行される[2]。必ずしも通常の殺人と暗殺を完全に区別できるものではなく、個人的動機の強い暗殺もありうるが、その場合にも、政治的な緊張感の高まりや政治不安といった要素は共通している[1]。なお、政教一致社会においては、宗教的な理由での暗殺が行われることもあった[4]

また、暗殺のターゲットとなる要人は、国家元首や政府首班などが普通であるが、対立政党の党首や財界の指導者などが対象となる場合もある[2]

英語の「assassination」は通常「暗殺」と訳される[5]。assassination は麻薬の一種であるハッシシを飲んだ人を意味するhashshāshǐnが語源であり、ハサン・サッバーフが部下にハッシシを与えて政府要人を殺害させたことに由来する[1]。なお、ケンブリッジ英英辞書では、assassination は、要人の殺害と定義しており、政治的目的に限定していない[6]が、英語圏の『オックスフォード現代英語辞典(OALD)』および米語圏における『ウェブスター英語辞典』は、特に政治目的での殺害のことを言うと定義している[7][8]

分類

暗殺には、権力者が加害者側のものと権力者が被害者側のもの、白色テロ赤色テロなど様々な区別がある[1]が、平凡社のマイペディアでは、以下のように分類している[9]

まず、政治権力を持つ者が行う暗殺と、政治権力を持たない者が行う暗殺に大きく分けられる[9]。さらに、前者は、1. 権力者同士が殺し合う場合(例としてガイウス・ユリウス・カエサルの暗殺)と、2. 権力者が刺客などによって反権力側の要人を殺す場合(例としてレフ・トロツキーの暗殺)に分けられる[9]。後者は、3. 権力を持たない者が権力者を倒す場合(例としてアレクサンドル2世暗殺事件)と、4. 権力を持たない者が反権力側の要人を倒す場合(例として山本宣治の暗殺)に分けられる[9]。このうち、2や4は右翼による左翼の暗殺、3は左翼による右翼の暗殺という形になることが多い[9]

歴史

王の殺害は多くの文化圏で古くから存在しており、暗殺の始まりは政治権力の出現まで遡る[9]。古くは、紀元前336年ピリッポス2世の暗殺や、紀元前44年ガイウス・ユリウス・カエサルの暗殺が著名である[1]。11世紀には、ハサン・サッバーフが暗殺のための秘密結社を作って、次々と要人の暗殺を行い、「Assassination」という単語の語源となった[1]。暴君の暗殺が正当化されるかどうかは、ヨーロッパで近代まで議論の的であった[9]。その後も第一次世界大戦の引き金となったり、各国のクーデターと関わるなど、政治的影響を与えている[1]

分析

結果的に体勢的影響を与える目的で実行されるものが多いため、未遂であっても歴史的事件として記録されることがほとんどである。また「暗殺」という漢字のイメージから夜間や隠密な行動と誤解されやすいが、ジョン・F・ケネディの例にもあるように大衆の面前で実行されることもある。また暗殺行為のほとんどがその対象のみを標的とし、周囲の側近や家族等への被害がない場合を暗殺と表現するケースも多い。 ほとんどの国・地域において殺人は「違法な行為である」とされているが、国家自体が軍隊特殊部隊、または諜報機関工作員などに殺害を命じ、実行したとされる例も多い。独裁体制国[注釈 1]さらに、イスラエルは暗殺の手段を選ばない上に合法化まで打ち出している。
殺害方法は銃撃、毒殺、刺殺などが主であり、被害が広範囲に及ぶ爆撃や砲撃などは暗殺とされないことがほとんどである。また、抵抗する猶予を与えるような行為もなく、絞首や溺死、拷問なども行われない。

強権政治を行う国家が行なう暗殺は、権力者側に寄りそう視点では、反対派・反体制派に対する弾圧・粛清的な面が強いという。

歴史的に見ると、横暴・強権的な権力者、国家元首皇帝などに対して暗殺が計画されてきた事例は枚挙にいとまがない。 古代ローマカエサル暗殺、ナポレオン暗殺未遂事件、第二次世界大戦中のヒトラー暗殺計画などのように、独裁者暴君犯罪者を、政治的・宗教的あるいは人々の幸福、という理由から殺すことの可否は、暴君放伐論(モナルコマキ)としてヨーロッパ政治思想のひとつとして論争が続けられてきた。

権力者に対する暗殺というのは、(ヒトラー暗殺計画、ナポレオン暗殺計画、カエサル暗殺計画のように、純粋に)特定人物をこの世に存在しなくさせること、何らかの具体的な行動を完全に阻止すること、その人物の影響力を完全に排除したりすることが基本である。暗殺が漠然と関係者に恐怖を与えることを目的とするならば、いわゆるテロと重なり合うこともある。ただし、無差別テロは特定要人の殺害ではなく社会全体を恐怖させるのが目的であるため、その結果要人が巻き込まれて死亡したとしても暗殺には含めない。

なお、暗殺時には、暗殺を行なったという証拠を残さないようにし、「ひき逃げ」などの「事故」や「自殺」に偽装することで警察などの捜査機関を欺いたり、または「薬殺」で「病死」を偽装することもある。そのため、権力を争っている要人などの事故死自殺があると、(犯人や黒幕とされている人物を除き)「あれは偽装された暗殺ではないか?」との疑念がつきまとうことになり、あまりに疑わしいと、陰謀の可能性を疑う説を声高に唱える人も出てくる。何かしら証拠が出てくれば暗殺だったと決着もつくが、そのような説が流布したわりに具体的な証拠が出てこないと、「陰謀だとするのは陰謀論だろう」とする説も出てくることがある。またケネディ大統領暗殺事件の様に、暗殺の事実や犯人が公になっている事件についても、実は他に真犯人や黒幕が存在するのではないかとの疑惑が持たれるケースもある。

暗殺事件の一覧

暗殺未遂事件の一覧

国家による暗殺

現代において、国家・組織による暗殺を公に宣言している国・組織と元首。

有名な暗殺疑惑

脚注

[脚注の使い方]

注釈

  1. ^ 例えばかつてのルーマニアなど。

出典

  1. ^ a b c d e f g h 日本大百科全書(ニッポニカ)(小学館). “暗殺”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年7月13日閲覧。
  2. ^ a b c ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. “暗殺”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年7月12日閲覧。
  3. ^ 『広辞苑 第7版』岩波書店、117頁。 
  4. ^ 世界大百科事典 第2版(平凡社). “暗殺”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年7月12日閲覧。
  5. ^ 【時事英語】“Assassinated” ってどういう意味?”. クーリエ・ジャポン. 2022年7月15日閲覧。
  6. ^ assassination”. Cambridge Dictionary. 2022年7月12日閲覧。
  7. ^ assassination noun - Definition, pictures, pronunciation and usage notes | Oxford Advanced Learner's Dictionary at OxfordLearnersDictionaries.com”. 2022-07-15 11:40 JST閲覧。
  8. ^ Definition of ASSASSINATION” (英語). www.merriam-webster.com. 2022年7月15日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g 百科事典マイペディア(平凡社). “暗殺”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年7月13日閲覧。
  10. ^ 【中2自殺】無言でハンマー振り下ろす、強い殺意か 大津市教育長襲撃の男子学生 - MSN産経ニュース、2012年8月15日

関連項目